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業界の悪しきカルチャーを暴く!(15)

「駅近・新築」でも空室。物件人気の二極化が進む「構造的な理由」とは?

大友健右大友健右

2016/06/20

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空室の原因は「供給過剰」だけではない

前回、首都圏の賃貸物件の空室率が30パーセント以上に上昇している現状と、その原因は需要と供給のバランスを無視して賃貸物件を建て続ける開発業者にあることをお伝えしましたが、今回は別の側面から空室問題について考えてみましょう。前回は需要と供給というマクロな視点の話でしたが、今回は個別の物件についてのミクロな視点からお話しします。

たしかに、需要と供給という面から考えれば、賃貸物件は供給過剰になってきています。しかし、そんななかでも確実に入居者を集めている物件はあります。それも新築だとか、駅近といった物件ではなく、バス便立地で築古の物件でも、です。その一方で、新築で立地がよくとも空室が埋まらないといった現象も生じています。実はその原因は、単なる需要と供給のバランスにあるのではなく、業界の構造そのものにあるのです。

不動産会社は空室が出ても困らない

それでは、順を追ってお話ししていきましょう。

空室が増えて困るのは、管理を委託されている不動産会社ではなく、物件の貸し主、すなわち大家さんです。空室ばかりでは家賃収入が減るだけでなく、銀行への借入金返済も大変になってくるからです。

とはいえ、何とか空室が出ないようにしよう、もし空室が出てしまったらすぐに次の人に入ってもらいたいと思っても、いまの業界の構造では、大家さんの立場からできることはたいしてありません。

たとえば、お客さんが内見に来ているのに、なかなか成約に結びつかなかったとしたら、大家さんとしては、なぜお客さんは自分の物件を気に入ってくれないのか、理由を知りたくなるのは当然です。もし問題があれば、少しでも多くの人に物件を気に入ってもらえるよう、改善する余地があるかもしれません。

しかし、この問いに満足な答えを返してくれる不動産会社の営業マンは、ほとんどいないでしょう。「予算が合わないようです」とか、「ほかにいい物件があったようです」といった、参考にならない話しかしてくれないことが多いのです。

それもそうです。不動産会社の営業マンは、Aの物件がダメならB、BがダメならCといった具合に、どの物件を選んでもらっても契約さえしてもらえれば仲介手数料が入ります。お客さんがあなたの物件を選ばなくても、ほかの物件をすすめればいいだけで、「なぜお客さんはあなたの物件を選ばなかったのか」を考える必要はないのです。

つまり、本来であれば、お客さんのニーズを大家さんに伝えなければならない不動産会社が、その機能を果たしていないため、多くの大家さんにはお客さんの声が届いていないというのが現実です。

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本当に大事なのは、人間の感情に訴える「印象評価」

そもそも物件を借りたいというとき、決め手になる判断基準は何でしょうか? 物件の立地、間取り、値段といった条件は重要でしょうが、決してそれだけではないはずです。

たとえば、その物件を内見したとき、「何となく雰囲気が暗いな」と感じたとしたら、その物件を選ぶ気にはなれないのではないでしょうか。家電製品を買うとき、機能は同じでも、古くさいデザインの商品よりカッコいいデザインのものを選ぶのと同じことです。

私はこれを「印象評価」と呼んで、お客さんに物件をすすめるときのポイントとして意識しています。ところが多くの不動産会社の営業マンは、この重要なポイントを意識することがないのです。

理由は、「印象評価」はデジタルな数字に置きかえられないから。「何となく雰囲気が暗い」という印象は、人間の感情から発するアナログな情報で、簡単に把握できるものではありません。立地、間取り、値段といったデジタルな情報しかお客さんに伝えようとしないし、成約しなかった理由もデジタルな数字で語ろうとします。「予算が合わないようです」とか、「ほかにいい物件があったようです」という具合に。

こうして、貸し主(大家さん)と借り主(お客さん)の間にミスマッチが起こり、空室率はますます高くなっていきます。

ちょっとした努力でマーケティングはできる

私が「ウチコミ!」を立ち上げた目的のひとつは、このようなミスマッチを解消するためです。「ウチコミ!」とは、大家さんが自ら物件のよさをアピールし、お客さんが直接それを目にすることのできる、ネット上のプラットフォームです。

大家さんは、お客さんから直接質問を受けてそれに答えます。そのやり取りを通じて、「どんな物件が求められているか?」をマーケティングすることができます。その結果、「いままでつかなかったお客さんが集まるようになった」という声が多く寄せられています。

マーケティングというと、「むずかしそう」とか、「自信がない」と感じる人もいるかもしれませんが、実はそれほどむずかしいことではありません。お客さんの声に耳を傾ければいいだけなのですから。

それを怠って不動産会社まかせにしていれば、事態は何も変わりません。たとえば、内見に立ち会って、お客さんと直接顔を合わせるだけでも、お客さんが自分の物件を見てどういう印象を持ったか、感じとることができるでしょう。こうした大家さん自身のちょっとした努力が空室率の上昇に歯止めをかける鍵なのです。

今回の結論
・空室率がアップしているのは、貸し主(大家さん)と借り主(お客さん)の間でミスマッチが起こっているから。
・物件の魅力をデジタルな情報でしか伝えられない不動産会社にその原因の一因がある。
・大家さんは自ら努力して、ニーズを探り、物件の魅力をアピールすべし。

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この記事を書いた人

株式会社ウチコミ 代表取締役 株式会社総研ホールディングス 代表取締役 株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役 1972年生まれ。大手マンション会社で営業手法のノウハウを学んだのち、大手不動産建設会社に転職。東京エリアにおける統括部門長として多くの不動産関連会社と取引、不動産流通のオモテとウラを深く知る。 現在、株式会社プロタイムズ総合研究所 代表取締役として、住宅リフォームを中心に事業を展開。また、株式会社ウチコミ 代表取締役として、賃貸情報サイト「ウチコミ!」を運営。入居の際の初期費用を削減できることから消費者の支持を集める。テレビ・新聞・雑誌などメディア出演も多数。

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